研究においては実験,考察,研究成果などはもちろん大事ですが,研究成果を 他の人々にわかる様に発表することによって初めて意味のあるものになります. あなたが研究の結果どれほど重大な発見をしたとしても,それを他の人々にう まく伝えることができなかったら,あなたの数カ月(年?)の苦労は水の泡と なってしまうでしょう.本研究室では,学会発表の前には研究室メンバー全員の前で数回の発表練習を 行います.卒研生の卒研発表や初めての学会発表の練習では,いつも同じよう な指摘が繰り返されます.研究発表においては,どんな内容の発表を行うにせ よ,基本的な注意点は変わりません.
このドキュメントでは,本研究室での研究発表練習の中でいつも指摘されるこ とがら,および私が気づいた良い研究発表をするための Tips をまとめました.
資料を作成する前に,まずあなたが研究発表で何を中心に伝えようと するのかをまとめましょう.あなたが余程のぐうたらでほんの少しし か研究をしていないのならともかく,発表したいことは山ほどあるでしょう. しかし,あなたが行った実験,検討,その結果などをすべて定められた時間の 中で発表することができるでしょうか? 発表題目,発表時間,聴衆のレベルなどを考慮して話の焦点を絞りましょう.
特にコンピュータ関連の研究の場合,研究の過程で必ずといって良いほどプロ グラムを作成することになります.研究の過程でプログラミングはかなりの時 間を占めることになるので,ついつい,プログラムの実装の話とか,デバッグ の話などをしてしまいがちですが,これは発表の内容と関係がない場合がほと んどです.話すべき内容ではありません.あなたのデバッグの苦労話を聞いて もだれも同情してくれません.
※[プレゼンテーションの基本] [プレゼンテーションの技術(パワーポイントファイル)] こちらもご覧下さい.研究発表では必ず使用するスライド資料.しかし,わかりやすい資料を作成するた めにはそれなりの工夫と努力,そして最低限のマナーが必要です.
基本的な心構え
- ひと目で内容が理解できるようなシートをめざす.
- 字は大きく.
- 文は体言止め.「文章」にしてはいけない.
- 見せる努力をする.
- 紙芝居,カラー化などの工夫をする.
- スライドが見にくいのをソフトウェアのせいにしない.
文字
字の大きさは少なくとも 24 pt にすること.これ以上小さいとほとんど読め ません.日本語用のフォントはMS P ゴシック(日本語)等のゴシック系のフォント,英語用のフォントにはArial,Tahomaなどのサンセリフ系フォントが良いでしょう.スライドのタイトル等には,これらのフォントよりもずっと太いHGP創英角ゴシックUBが良いでしょう.MSゴシックではなく,MS Pゴシックをここで勧めているのは,MS Pゴシックがプロポーショナルフォントのため,MSゴシックよりも若干多くの文字を詰め込むことができるからです.
明朝体(MS 明朝,MS P明朝など)は細くて読みにくいので,スライドで使うには適しません.同様にCenturyやTimes New Romanなどのセリフつきフォントも細いので使わないようにしましょう.
日本語フォントを「太字」にすることは避けてください.日本語True Typeフォントの太字は計算によって無理やり太字にしているので,表示・印刷結果が美しくありません.「太字」を使うのではなく,最初から文字が太くなるように設計されたフォントを使うようにしましょう.
私の場合,以下のようにしています.
- タイトル
- 創英角ゴシック / 創英角ゴシック 44 pt
- 項目名
- 創英角ゴシック / 創英角ゴシック 32 pt
- 本文
- MS Pゴシック / Arial 28 pt
見せる工夫・努力
発表の作成においては,聴衆の視覚に訴えるための工夫と努力を惜しんではい けません.
- 文章はだめ!
だらだら文章がかいてあるシートなど,だれが読んでくれるでしょうか? 文章ではなく,「名詞」あるいは「名詞化」したものを書きましょう.
【例】
「FastTCPというTCP/IP のスループットを向上させる手法を提案する.」
ではなく
「提案方式: FastTCP TCP/IP のスループットを向上」
で十分意味は伝わります.
- グラフと表
グラフにできる数値データは必ずグラフにしましょう.20行もあるような 表を OHP シートから読みとるのは聴衆にとって苦痛でしかありません.
グラフにできないデータは,図の中にデータを書き込むことによって見や すくなるかも知れません.ひと目でデータがわかるような工夫をしましょ う.
表でなければならないようなデータは,なるべく表が細かくならないよう に工夫しましょう.
- アニメーションを効果的に使う
パワーポイントのアニメーション機能をうまく使って純を追って説明しましょう.ただし,アニメーションの使いすぎは禁物です.アニメーションの使い方を覚えたばかりの人はアニメーションを多用する傾向がありますが,アニメーションの必要ないところにも使い,無駄に時間と手間をかけている人が多いようです.アニメーションは本当に必要なところだけに使うようにしましょう.
- 使えるものはスライドだけではない
ポインタ,模型,見ぶり手ぶりなど,視覚に訴える手段はいくらでもあります.
全体の流れ
スライド全体の流れの例を以下に示します.もちろんこれは一例ですから自分の考えがうまく伝えることができるように,各自工夫して下さい.
- 発表題目
題目,名前,所属
- 背景
従来研究との関連,研究の必要性を明らかにします.
聴衆の専門性に合わせて,どのレベルから話しをもっていくかを考慮しましょう.特に卒論,修論発表など学内での発表では自分の研究領域を全く知らない先生方があなたの話しを聞くわけです.いきなり専門的な話をしても理解してもらえません.
- 目的
研究の位置づけを明らかにします.これがちゃんと伝わらないと,「結局あなたは何のために何をしたの?」と質問されかねません.
- 研究の内容
実験方法・システムの説明・理論の展開など.
- 結果
実験結果,測定結果などをグラフなどを使って示します.
裏技として,結果のスライドを最初にもってきて,インパクトを与えるという手もあります.
- 考察
結果に関する考察,およびそれからわかる結論について示します.
- まとめ
この発表で何を伝えたのかを 1 枚でまとめます.何のために何をして何がわかったのかが伝われば良いでしょう.内容はこれまでのスライドと重複していても構いません.
- 今後の課題
まとめのスライドに含めても良いでしょう.
- 大きな声ではっきりと
基本です.ぼそぼそ話しても誰も聞いてくれません.
- スクリーンではなく,聴衆の方を向いて話す.
図の説明をするときなど,ついついスクリーンの方ばかり見てしまいがちですが,聴衆にお尻を向けて話すのは失礼ですし,マイクを使っていない場合,声が聴衆に届かないこともあります.図の説明を必死になってするのではなく,自分の意見を聴衆に語りかけるという姿勢が大切です.
- 聴衆の顔をまんべんなく見て話す
聴衆の全員あるいは目をつけたひとの顔を,一秒ずつくらい見ながら話してみて下さい.目があったひとは,自分にむかって話しをされているような気になって,真剣に話を聞いてくれます.
- 見ぶり手ぶりをまじえる
使えるものは最大限使って伝えましょう.
- 「あの」「その」「これ」「あれ」「ここ」は使わない.
代名詞ではなく,はっきりと「名詞」を言いましょう.ポインタで図の一部を差しながら,「あの」「この」などと説明しても,「あの」や「この」が何なのか聴衆には理解できません.聴衆が少しでもスクリーンから目を離したら,何の説明だかわからなくなってしまいます.
- 上手な人の発表を真似よう
プレゼンテーションは学会でのみ行われているわけではありません.大学の授業だって一種のプレゼンですし,ニュースだってそうです.まわりを良く見渡して,参考にできるものは採り入れましょう.
私が参考にしたものをいくつかあげます.
- TV 「サルでもわかるニュース」
タレントが時事の話題を解説していたのですが,みんな良く練習しているようでうまいです.
- TV 「ニュースステーション」
フリップの構成は スライドを作る時の参考になります.
- 中学の時の校長先生
話をするときに,聴衆ひとりずつの顔をみてまわるので,聞いている方は自分について話しているのではないかとドキドキしました.
- 岡田先生の授業 (注: 私の大学院時代の恩師)
私が聞いた大学の授業で最もわかりやすかったと思います.大学の講義では,ひどい講義をする先生も結構いるんですよね.
研究発表で一番恐いのが質疑応答ですね.しかし恐がってはいけません.あなたが良い発表をすればするほど質問は増えるものなのです.質問があったなら,それを誇りに思って堂々と答えましょう.さて,よい質疑応答というのは,
ことだと思います.さて,そのためにはどうすればいいのでしょう.
- 質問の意味を正しく解釈し
- 落ち着いて
- 明確に答える
質疑応答が終ってもそのままにしないようにしましょう.質問された内容はメモにとっておいて,今後の自分の研究の材料にしましょう.
- 前もって質問は予想しておく.
- 質問は良く聞く.可能ならばメモをとる.
質問を予想しておいたり,メモにとったりすることで,落ち着いて答えることができます.特にメモをとるのは有効で,答を思いつくまでの時間稼ぎにもなりますし,見ている人には落ち着いているという印象を与えることができます.
- "Yes/No" "Which" にはズバリと答える.
だらだら答えても質問者は満足しません.細かい説明は後に回して,最初にズバリと答をいいましょう.
- ながい質問は整理して,一つ一つ答えるようにする.
質疑応答は質問者ただ一人のためにあるわけではありません.質問者は聴衆を代表して質問しているわけです.聴衆にわかりやすく伝えるために,質問者の質問を整理し直してから説明するようにしましょう.例えばこんな感じです.
「○○と××についての質問でしたが,まず○○の方からお答えしたいと 思います....」